アート彫刻板と北海道林産技術普及協会

元 北海道立林産試験場利用部長 峯村 伸哉

 

 

[きっかけ]
 平成3年に(社)北海道林産技術普及協会の会長となった竹内氏は、木材の需要拡大の一つとして学校教材への利用を考えていました。一方、道産材であるシナは色が白くて柔らかい特性があり、彫刻用の教材として多用される木材です。そこで竹内氏は、このシナの特徴に注目し、シナ単板を接着して合板とする際に接着層に色を着けることで、これまでとは違うユニークな彫刻板ができないかと考えました。このアイデアの具現化に向けた相談が、利用部長であった私のところに舞い込んできました。合板科長であった高谷氏にも協力を求め、林産試験場として試作品を検討する運びとなりました。

[彫刻板の試作]
 彫刻には刃物を使うことから、使用する接着剤は刃物を破損しないものであって、かつ接着作業が容易で安価なものでという観点から、当初は酢酸ビニルエマルジョンに少量のユリア樹脂を配合するものを主体としました。
接着層の着色は、製糊時に接着剤の中に着色剤を混ぜることとし、価格や着色力、白いシナの材色との対比効果などを考慮して赤色を主体に黄色と黒色を混合して調製した赤色系染料を使用することにしました。また、さらに付加価値を高める試みとして、香料と発光剤を接着剤に混合しました。香料は、彫刻刀が接着層に達した時に、よい香りが手元に漂うことを想定したものであり、針葉樹の精油に似た芳香液を製糊時に配合しました。発光剤の混合は、彫刻作品を暗いところに置いた時に、作品表面に現れている面状あるいは筋状の着色接着層が、光を放って浮き上がることを意図したものです。蛍光塗料や夜行塗料用の顔料は、周囲に光がないと発光しないことから、単独でも発光する特別の顔料を選定しました。

 以上のように製糊した接着剤を用いてハンドローラーによる塗布作業を行いましたが、とくに問題は生じませんでした。また、その後の圧締作業においても通常のシナ合板の製造と同様に作業が進みました。

[彫刻作品の試作]
 実際に、専門家の方々に試作した彫刻版を使用して作品を彫っていただきました。鳥や魚の置物では、着色した接着層が羽根や鱗を一枚一枚浮き立たせる輪郭の役割をはたすこと、農村風景画では着色した接着層を全面に広げることで田畑をイメージさせることなど、単色の無垢の板では表現できない様々な模様を出すことができました。これにより、非常にユニークな使い方ができる彫刻板であることが分かりました。また、香りの発散や発光効果も認められました。

[アート彫刻板の普及に向けて]
 いよいよ彫刻板を本格的に量産し、学校教材として普及することになりました。その役目の一翼を(社)北海道林産技術普及協会が担うことになったわけです。普及に当たっては価格をできるだけ安くする必要があります。そこで、試作で用いた香料や発光剤の使用を避けて、上記の赤色系染料のみを接着剤に混ぜることにしました。また接着剤については、ホルムアルデヒドを含まないものが求められるようになったことから、水性ビニルウレタン系接着剤を主剤とするものを使うこととしました。

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 この彫刻板は、接着層を着色した合板(または積層材)であることから、カラード・グルー・プライウッド(Colored Glue Plywood:C.G.P.)となりますが、同協会ではアート彫刻板という名称で需要の拡大を推進することを決めました。そして、アート彫刻板を普及する活動として、平成5年度から、全道の小中学校を対象にした「北海道こども木工作品コンクール」の中に「レリーフ作品コンクール」の部門が作られました。このコンクールは、(社)北海道林産技術普及協会と林産試験場が共催して開催している「木のグランドフェア」の行事として定着し、平成14年で10回目を数えたと伺っています。さらに、平成13年からは、高齢者サークルを対象にした「アート彫刻板作品コンクール」の開催へと発展しているとのことでもあり、生みの親の一人としてアート彫刻板のさらなる需要拡大を願ってやみません。

図 アート彫刻板

●アート彫刻板の参考資料
1  

安藤康光,高谷典良,中村 勤:“接着層着色単板積層材の製造と利用”,日本木材学会北海道支部講演集,No.24,36-39(1992).

2  

安藤康光:“「夢」拡がるカラード・グルー・プライウッド−接着層着色単板積層材の製造と利用について−”,林産試だより6月号,1993年,p.6-11.

3  

合板科:“ノンホルマリン接着剤を用いたC.G.P.”,平成9年度林産試験場研究成果発表会資料,1998年,p.41.

4  

富樫 巌,井上教之,大崎久司,安藤康光,佐野弥栄子:“林産教育としてのアート彫刻板の普及啓発活動”,第52回日本木材学会大会研究発表要旨集,2002年,p.494.

5.6   林産試験場:“林産試ニュース”,林産試だより5月号,2002年,p.18.
6  

富樫 巌:“北海道立林産試験場の事例−木材利用文化の普及啓発活動−”,森林環境教育全国シンポジウム討議資料(千葉県山武町),2002年,p.19.