「林産技術普及協会の思い出と今後への期待」

元 北海道立林産試験場長 山本 宏

 林産技術普及協会創立50周年を心からお祝い申し上げます。歴代の会長、理事、事務局の方々のご尽力に心から敬意を表します。

林産試験場の発足から3年後に普及協会は誕生していますが、終戦後の復興がようやく軌道に乗り始めたその時期に、業界に対する技術の普及と指導を目指した協会を設立した、当時の業界および林産試験場のリーダーの方々の慧眼と決断に感服いたします。いつの時代でも研究と産業界の技術の間にはギャップがあり、その差を狭めることが技術の普及には不可欠ですが、逸早く研究と実用技術の間の橋渡しの役割をする普及協会を発足させたことは実に画期的なことだったと思います。

その後の北海道の林産業界の発展に果たされた普及協会の功績の数々については言うまでもありませんが、その運営と維持には並々ならぬご苦労があったことと思います。他の研究機関でも普及の重要性を認識しながらも、現在でも研究成果を業界に普及させる組織を持つ公設研究機関は数えるほどしかないことからもその難しさが分かると思います。林産試験場と表裏一体の普及協会の活動は、北海道内はもちろん全国さらには世界でも注目されていたようです。例えば、私が昭和50年代半ばにオスロの国際学会に参加した折、知り合いになったドイツの若い技術者から日本の北海道に非常にユニークな研究所と普及組織があると聞いているが、お前は知っているかと尋ねられたことがあります。当時世界の木材研究の神様的存在であったコールマン博士から林産試験場と普及協会のことを聞いたといっていました。日本に行ったら他に行かなくても林産試だけは訪ねるべきであると博士から聞かされていると言っていたことを、誇らしく聞いたことを覚えています。

普及協会の数々の業績の一つに、592号を数える協会誌の発行があります。豊かな内容とこれほど長く続いた普及誌は世界でも稀な例だと思います。いくつかの変遷を経て現在のウッディエイジになったのですが、その時々の協会と試験場の関係者の御努力に頭が下がる思いです。私は現在、木材のベンチャー企業の手伝いをしていますが毎月のウッディエイジには多くの仕事上のヒントが盛り込まれており、アイデアに困ったときに先ず読み返すほど貴重な情報源の一つになっています。今後も内容の一層の充実を期待しています。

また、市民に木材の良さ、楽しさを実感してもらうために始めたウッドサマーフェスティバルも木工工作、彫刻コンクールと共に素晴らしい成果を挙げていると思います。今では類似の行事は全国各地で行われていますが、ウッドサマーフェスティバルのように10数年続いて市民の恒例行事の一つになっている例は非常に少ないと思います。今後は従来の日曜大工的な木材体験から、昨今の木材に対する市民の関心の高まりに合わせて、家具や住宅など暮らしの中での木材文化を実感できるような新しい方向へ少しずつ発展することを期待しております。

最後に現在の仕事の中で実感していることですが、林産試験場の知識とノウハウの集積と設備が零細なベンチャー企業にとっては宝の山に思えるのです。設備、熟練技術者ともに乏しい零細企業にとって、日常作業の中で永年の経験によって得られたノウハウが喉から手が出るほど欲しいことが多いのです。そこで、これまでの研究成果の普及に加えて林産試験場OBを含む技術者集団に蓄積されたノウハウを零細企業に普及させることにも普及協会の力を貸して欲しいと痛切に思うこの頃です。

林産技術普及協会と会員各位の今後の益々の発展を祈念して終わりといたします。