林産技術普及協会50周年にあたり

北日本木材株式会社代表取締役社長
社団法人北海道林産技術普及協会副会長 高原 郷

 林産技術普及協会の50周年記念にあたり先ずもって歴代の林産試験場長様はじめ今日までの試験場職員の皆様の長きに渡る当協会に対する御支援と御厚情に深く感謝するとともに、当協会会員の皆様が協会運営のために払われた弛まぬ御努力に心から敬意を表する次第です。

 一口に50年と申しましてもこの50年は日本にとって将に激動の50年でありまして、50年前に遡り昭和28年を思い起こせば、我国はまだまだ先の大戦の後遺症から抜け出せず、やっと朝鮮動乱の混迷から開放され又NHKのテレビ放送が開始される等、今日までの平和と繁栄の道を上り始めたばかりでした。以来日本は他の国も羨むような経済的発展を遂げ、世界第二の経済国として国際的に認められるまでの繁栄を極めたわけですが、今年還暦を迎える私にとって物心がついた頃からの50年と、当協会の50年が重なり合うのをあらためて思い起こし、誠に感慨深いものがあります。

 翻って北海道の林業林産業に思いを移しますと、当業界にとってのこの50年間の変動は国の繁栄とは軌道を一にせず真に激しい厳しいものでありました。業界全体としての事業規模は既に十数年に渡り衰退の一途を辿っており、道内の良質な森林資源に裏打ちされ昭和後期まで続いた業界の活気と華やかさは夢の又夢となっています。又最近の業界の現状および前途を鑑みましても、決して楽観できる状況ではないのが残念の極みであります。

 北海道内(裏山)の天然林資源の枯渇又は外材の攻勢など、当業界の不振の原因はいろいろ考えられますが、それらの原因を集めて嘆いているだけでは決して業界の再起はありません。枯渇した天然林の更新については、森林整備の一環として早急に諸施策を打つ必要がありますが、それはかなりの長期的視点に立って実施せざるを得ず、目下の重要課題は、数十年に渡って育てられた再生可能な人工林を主体とする道内森林資源を有効利用し、循環型の林業林産業を新たに立ち上げる事であり、又更なる森林整備事業を着実に実施して、地球温暖化を防止し、自然環境保全に最も効果がある豊かな森を作り、それを多面的に活用する事です。

 森林整備事業に関しては最近になりその重要性が各地各界で叫ばれるようになり、国の予算等の配分も他の公共事業に比し当事業に傾斜しつつある事は喜ばしい事でありますが、森林が整備されるという事即ち衰退しつつある川上の林業が立ち直る事の為には、同時に川下の林産業が強固な基盤の基に成立し存続している事が不可欠であります。森林から間伐等で搬出される資源が川下の林産業で確実に活用され、そこから生まれる余剰資金が川上の林業に還元される、真に経済的な循環型林業林産業の確立こそが我々業界の最終目的であると確信しております。

 然るに道内の林産業界の昨今はマスコミから“立ち枯れ”との不名誉な形容をされるほど衰退しており、林産業の担い手である製材/乾燥/加工業界、更にその先の家具/木工及び建築業界は不況の只中にあり、ここ数十年間にこれら林産業の規模は往時の3割程度までに激減しているのが実態であります。これではいかに循環型林業林産業と唱えても絵に描いた餅にしかならず、将に今こそ官・産・学が一体となった林業林産業の再構築計画を早期に作成し、それを速やかに実施に移し、外国の同業者との競争に負けない道産材の業界を全道的規模で立ち上げる必要があります。先ず林産技術普及協会を中心とする我々業界の更なる自助努力が必要であり、合わせて国・道・市町村の積極的な支援が不可欠であり、且つ学会からは業界再構築に実質的に寄与する、総合的な情報と技術の提供が期待されます。

 以上の構想の実現は総論としては受け入れられたとしても、各論としてどのように具体的に実践するかを煮詰める事は非常に難しいと思われますが、当協会50周年にあたり、官・産・学の英知が結集され、我々の業界が前向きに再構築される事により、北海道の森林資源が保全され、豊かな緑に護られた道民の安全な自然との共存生活が永遠に続くことを願わずにはいられません。